WHITE

でつ

「もっと頑張れ」

「お姉さん、表情と言葉が合ってなくて気持ち悪いね」と、飲みの席で声をかけてきたお兄さんに言われた。その時は適当に「でしょう?」なんて笑ったが、割と深刻な問題のような気もする。表情と言葉が合っていないなんて初めて言われた。あいつの顔はもう覚えてないし、あんなちゃらんぽらんなやつの言葉なんか別にどうでもいいのだけれど、急にヘビーな爆弾を落としていきやがってくそ、くらいには思ってる。

今まで大切にしてきた人たちも、わたしをみてそう思ったことがあるのだろうか。一度だけ「どうしてそんなに冷たい顔をしているの」と言われたこともある。その時は夕飯を作っていたし(ご飯のことになると急にご機嫌)、真夏の夕方、クーラーを効かせて快適な部屋にいたし、そんなつもりは微塵もなかったのだけれど。その時も「表情に気持ちを出すってわたしにとっては難しいのよ」なんて適当に答えた気がする。あと、気を抜いたと後悔した気がする。

楽しい時には楽しい表情を、悲しい時には悲しい表情を、と常に思いながら生活しているわたしは、やっぱりまだまだ上手くできないのだなと実感した。他の人だって、悲しいのに笑っていたり、嬉しいのに冷静でいたりするはず。それを違和感なくこなせているのは、本当に人間だなと思う。すごく羨ましい。

楽しい時には「楽しいね」と口に出して、楽しい表情でいたい。悲しい時には「悲しいよ」と伝えて泣きたい。小さな頃から泣くことにも抵抗がある。一瞬で自分に注目を浴びせてしまうところとか、相手の困った顔とか、もうお手上げという態度とか、苦手。だから小学校1年生から、1人部屋をもらい1人で寝ていた。ベットに横になって布団に頭までうずくまってでしか、昔は泣かなかった。泣かなかったというか泣けなかった。

こうやって文字にしていくと、自分大丈夫かと思えてくる。本当に大丈夫だろうか。

昔お父さんは工場で働いていたらしいのだけれど、全力で働いているのに頑張っているようにみられなくて「もっと頑張れ」と言われ続け、挙げ句の果てにやる気がないからとクビになった、なんて言って笑っていた。その時わたしも一緒になって笑ったが、笑い事ではない。

表情や態度や涙で得をしている人を何人も見てきた。今書いてて気付いたけど、その人たちにはもう敵わないのかもしれない。

「誰かが見ていると思って仕事をしなさい。誰もみていなくても、毎朝玄関をほうきではきなさい。やり続ければ絶対誰かは気付いてくれているから。」とクビになった話に続けてお父さんは言った。なんて言葉を返したらいいか悩み「はい」と返事をした。