WHITE

でつ

なんとなくの感覚

「ねえ先生、夕焼けだよ」

毎日注意して褒めて注意して褒めての繰り返し。ばたばたと時間は過ぎ、息を吸って吐いたら1日が終わっているような毎日。そんな夕方、その子は窓の外をじっと見つめ、わたしの腕を引いた。「本当だ、綺麗だね」そう返事をした。それ以上の言葉は考えても出てこなかったから諦めているんだけど、その子は「うん」とも頷きもせずに、別の遊びを始めた。怒涛に過ぎていく時間で、なんとなくその子のその時間は“止まらなきゃ”と思った気がする。

その、なんとなくの感覚を最近大切にしている。なんとなく入ってみたい、なんとなくやってみたい、なんとなく要らない気がする。そんな感じ。例えば、なんとなく立ち寄った本屋さんで、人生のバイブルが見つかるかもしれないし、例えば、なんとなく参加してみた飲み会で一生のパートナーが見つかるかも知れない(ただの希望)。そして例えば、その一生のパートナーに「どうして自分を選んだの?」なんて聞かれたら「なんとなく、あなたしかいないって思ったのよ」と調子乗った表情で伝えたい。

この前ふらっと街を歩いていたときに、小さい本屋さんを見つけた。その立て看板に「ここに入れば、あなたの人生変わります」なんて書いてあった。どこぞの小説やと思って通り過ぎたんだけど、なんとなく気になって10メートルくらい歩いて引き返した(どこぞの小説や)。「いらっしゃいませ〜」入ると、左側にはテーブルと6席の椅子、右側にはコタツがあった。ドリンクかフードを頼むと席に座れるらしい。うろちょろしてたら店員さんに話しかけられた。そして店に置いてある本をいくつか紹介された。テーブルには、6〜7人の大人が座り好きな本を一冊持ち寄って、その本について好きなだけ語り潰す何かをやっていた。店員さんがこの会の説明もしてくれたんだけど忘れたのでまあそこはいい。ぼーっとその会を聞きながら思ったのは“大好きな何か”があるっていいなあってこと。別に本じゃなくてもなんでもいいと思うのだけど「あー、これすき、たまらねえ!」ってもの、みんなはあるのかしら。あるならぜひ教えてほしい。そしてわたしに語り潰してほしい。できるならば、全力で。そうしてわたしはうんうんと頷きながら、羨ましがりたい。

真夏の暑くて暑くてたまらなかった日の夕方に、夕立が降った後、雨の匂いと夏の匂いとどう考えても1日が終わる雰囲気に飲み込まれながらそんなことをしたい。

「ねえ、夕焼けだよ」なんていいながら。控えめに言って最高。