WHITE

でつ

プレートのケーキ

おばあちゃんになったらやりたい事がある。可愛らしい孫と可愛らしいプレートのケーキを食べることだ。

 

函館で短大生をしていた頃、2年の後期声楽を受講していた。その声楽の先生はきっと50歳半ばくらい(間違ってたらだいぶ失礼)だったのだけど、最後の講義でテストをしたあと受講していた6人に「このあと時間ある?」と聞いた。みんな偶然空いていて頷くと「ケーキをご馳走するわ、今から行きましょう」とにこやかに言った。女の子はその華やかなネーミングに食いつかないわけがない。みんなキラキラした目で「ケーキ?!」と返事をした。

お店に着くと先生は「お持ち帰りできない、プレートのケーキを頼みなさい、セットにして温かい飲み物でも飲みましょう」そう言った。可愛いプレートに、可愛いケーキが乗ってくる。目も口も幸せになる。「ご馳走さまでした、美味しかったです」そうお礼を言った。

お会計するときに先生は「好きなケーキもう一つ選びなさい、持ち帰って食べて」と言った。それを聞いてみんなの目がまた輝く。若い女の子たちをここまで喜ばせられる大人がいるのだろうか。かっこいい。お店を出るときには、みんな幸せを一箱持って出ていた。そこまでの人生もそこからの人生も、あんなに素直にかっこいいと思えた大人はあの声楽の先生だけだなと思う。子どもにも大人にもなりきれていない女の子たちを素直に喜ばせて、笑顔にして帰す。何にもしてないのに「よく頑張ったね」って褒められた気分だった。

 

そこで本題に戻るわけだけど、プレートのケーキをご馳走するおばあちゃん、かっこいい。ちなみに孫が20歳の誕生日を迎えたときにやりたい。その時はきっと70歳くらいになっているのだろうか。子どもにも大人にもなりきれていないその子を、よく頑張ったねと褒めてやりたい。

 

孫を可愛いカフェに誘って、プレートのケーキを一つずつ頼む。「おばあちゃんが食べられなかったら、食べてね」なんて言いながら。もちろんあったかい飲み物もつけて。「かわいいね」「おいしいね」そう言って孫はにこにこ笑いながら食べるのだ。そして、「おばあちゃんご馳走さま」そう言われたときに、「お家に一つ持って帰りましょう、あなたの好きなケーキを選びなさい」そう言う。孫はキラキラした目でショーケースの中のケーキを見つめ、うーんとか、でもとか悩みながらこれと決める。お店を出るときには幸せを一箱持って帰るのだ。

 

いい、とてもいい。目も口も心も幸せだ。孫とわたしだけの秘密にしたい。